生徒の「読む力」「考える力」を深める:中学校授業で物語の「要素」に着目させるストーリーテリング導入法
授業に新たな視点を:物語の「要素」に着目する有効性
日々の授業において、生徒が教科書や資料の内容を表面的な情報として捉えるだけでなく、その背後にある構造や繋がりを深く理解することの重要性は多くの先生方が感じられていることでしょう。特に読解力や思考力を高める指導は、多くの先生方にとって共通の課題の一つではないでしょうか。
この課題に対し、ストーリーテリングの手法を取り入れることは有効なアプローチとなり得ます。しかし、生徒に長大な物語を語らせたり、複雑な創作活動を行わせたりすることは、授業時間や準備の負担を考えると必ずしも現実的ではないかもしれません。
そこで提案したいのが、「物語の『要素』に着目させる」という比較的簡易なストーリーテリングの導入法です。これは、複雑な物語全体を扱うのではなく、「原因と結果」「変化」「対立と解決」といった、物語を構成する基本的な要素に焦点を当てる方法です。生徒がこれらの要素を見つけたり、関係性を考えたりする活動を通じて、自然と読解力や思考力を養うことが期待できます。
なぜ物語の「要素」に着目するのか
物語の要素は、私たちが世界を理解するための基本的なフレームワークを提供します。例えば、歴史上の出来事はしばしば「原因」があり、それによって「結果」が生じ、「対立」を経て「解決」に至り、社会や人々に「変化」をもたらします。科学的な発見のプロセスも、ある現象(原因)が観察され、探求(対立)を経て原理(解決)が明らかになり、技術や知識の発展(変化)につながると解釈できます。
生徒がこのような物語的な要素を読み取る力を養うことは、教科書の内容を単なる事実の羅列としてではなく、ダイナミックなプロセスとして理解する助けとなります。これは、情報の受け手としての読解力を深めると同時に、自ら考えるための思考力の基盤を培うことにつながります。
ストーリーテリングの「要素」に着目させる具体的なステップ
このアプローチを授業に取り入れるための具体的なステップをご紹介します。手軽に始められることから段階的に取り組むことが可能です。
ステップ1:扱う「物語の要素」を一つ決める
まずは、授業で特に生徒に意識させたい、あるいはその単元の内容と親和性の高い「物語の要素」を一つ選びます。例としては以下のようなものが考えられます。
- 原因と結果: なぜそうなったのか、それによって何が起きたのか。
- 変化: どのように物事や人物が変わったのか、その転換点はどこか。
- 対立と解決: 何と何がぶつかり合い、それがどう収まったのか。
- 目的と達成(または挫折): 何を目指し、それがどうなったのか。
ステップ2:短い文章や写真から要素を見つける簡単な活動から始める
いきなり教科書の内容に適用するのではなく、生徒にとって身近で短い題材を使って練習を行います。
- 例:短いニュース記事
- 「昨日の大雨(原因)により、川が氾濫しました(結果)。住民は避難しました(結果)。」のように、原因と結果の関係を線で結ばせる、書き出させるなどの活動を行います。
- 例:一枚の写真
- 古い建物と新しい建物が写った写真を見て、「何がどう変わったのか(変化)」「なぜ変わったのか(原因)」「これからどうなるか(変化の予測)」などを考えさせます。
- 例:短い寓話や童話
- 登場人物の「目的」は何だったのか、その目的を達成するためにどんな「対立」があり、どう「解決」したのかを話し合います。
ステップ3:教科書の内容に「物語の要素」を適用する
ステップ2で慣れたら、実際の教科書の内容に選んだ要素を適用します。
- 例えば社会科で「明治維新」を扱う際、「なぜ江戸幕府は倒れたのか(原因)」、「それによって日本はどのように変わったのか(変化)」、「新しい政治体制を巡ってどんな対立があったのか(対立)」といった視点で教科書を読み進めます。
- 理科で物質の「状態変化」を学ぶ際に、「熱を加える(原因)」と物質が「液体から気体に変わる(変化)」というプロセスを、単なる現象の説明としてだけでなく、「なぜ変わるのか」「どのように変わるのか」という要素に着目して理解を深めます。
- 国語で人物の心情の変化を読み取る際に、ある出来事(原因)が主人公の気持ちにどのような「変化」をもたらしたのか、その変化のきっかけとなった「対立」は何か、などを丁寧に追っていきます。
生徒に該当箇所を教科書から探し出させたり、簡単なワークシートに書き出させたり、グループで話し合わせたりする活動を組み合わせることで、より主体的な学びに繋がります。
実践のヒントと注意点
- 難しくしすぎない: 最初から複雑な要素を組み合わせたり、深い分析を求めたりする必要はありません。一つの要素に絞り、見つけやすい例から始めます。
- 「正解」を一つに限定しない: 特に解釈が分かれる内容の場合、多様な見方があることを認め、生徒が「なぜそう考えたのか」を説明できるように促します。
- 可視化を工夫する: 要素間の関係性を図や矢印などで書き出すワークシートを用意したり、板書で関係性を示したりすることで、生徒の理解を助けます。
- 生徒同士の対話を促す: グループワークを取り入れ、生徒同士で「私はこう考えた」「それはなぜ?」と問いかけ合う機会を作ることで、思考が深まります。
まとめ
中学校授業でストーリーテリングの全てを取り入れることは難しくても、「物語の要素」に着目させるという手法は、比較的少ない負担で生徒の読解力と思考力を高める有効な手段となり得ます。教科書の内容を新しい視点から捉え直し、生徒が「なぜ」「どのように」と自ら問いを立てながら学ぶ姿勢を育むための一歩として、この「要素」に着目するアプローチを授業にプラスアルファとして取り入れてみてはいかがでしょうか。