中学校授業で生徒の協働を促すストーリーテリング活用アイデア
ストーリーテリングが拓く、中学校の協働学習
中学校の授業において、生徒たちが互いに協力し、主体的に学ぶ協働学習の重要性は広く認識されています。しかしながら、どのようにすれば生徒が意欲的に関わり、深い学びにつながる協働を実現できるか、日々工夫を重ねている先生方も多いかと存じます。特に、単なる作業分担に終わらず、生徒一人ひとりがアイデアを出し合い、共に創造する過程を促すことは容易ではありません。
このような課題に対し、ストーリーテリングは有効な解決策の一つとなり得ます。物語を作る、あるいは読み解く活動は、本質的に他者との共感や交流を促す性質を持っています。これを授業に取り入れることで、生徒は自然と互いの考えに耳を傾け、共通の目標に向かって協力する姿勢を育むことができます。
なぜストーリーテリングが協働学習を促すのか
ストーリーテリング活動が生徒間の協働を促進する理由はいくつかあります。
- 共通の目的意識: ストーリーを完成させる、特定の登場人物の視点で出来事を語るといった明確な共通の目標が生まれます。
- アイデアの共有と発展: 一人のアイデアが別の生徒の想像力を刺激し、物語が予期せぬ方向に広がっていく過程で、活発な意見交換が生まれます。
- 役割分担と相互補完: 物語の構成を考える人、登場人物を描写する人、セリフを考える人など、生徒それぞれの得意なことや興味に応じて役割が生まれやすく、互いに補い合いながら進めることができます。
- 共感と理解の深化: 他の生徒が作り出した物語や登場人物の感情に触れることで、共感する力が養われ、多様な価値観への理解が深まります。
これらの要素が組み合わさることで、生徒たちは「共に作り上げる楽しさ」を感じ、自然な形で協働的なコミュニケーションを図るようになります。
中学校授業で協働的なストーリーテリングを取り入れるステップ
ここでは、中学校の授業で手軽に始められる、協働的なストーリーテリング活動の具体的なステップをご紹介します。
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活動のテーマ設定: まずは、授業内容に関連した、生徒たちが共同で取り組みやすいテーマを設定します。抽象的な概念や歴史的な出来事、科学的な現象などを、生徒にとって身近なものとして捉え直せるようなテーマが効果的です。
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- 特定の歴史上の人物が、現代にタイムスリップしたら何を感じ、どう行動するか。
- 細胞の中の小器官が、それぞれ意志を持っていたらどんな会話をするか。
- ある地理的な場所が、数百年後の未来でどのように変わっているか。
- 教科書に登場する英単語を使って、友情の物語を作る。
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グループ編成と初期設定: 生徒を数人のグループに分けます。グループ内で、物語の主要な要素(例: 主人公、舞台、核となる出来事)について簡単に話し合う時間を与えます。全員が一度は意見を言えるように促すと良いでしょう。
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共同でのストーリー構成と記述: グループで協力して物語を構築していきます。
- アイデア出し: 付箋やホワイトボード、共有ドキュメントなどを活用し、グループメンバー全員でアイデアを書き出します。批判をせず、自由な発想を促します。
- 構成の検討: 書き出したアイデアを元に、物語の始まり、展開、結末をどのように進めるか話し合います。登場人物の役割や心情の変化なども検討します。
- 分担と執筆: ストーリーのアウトラインが決まったら、部分ごとに分担して記述を進めることも可能です。ただし、全体の一貫性を保つために、定期的に内容を共有し、調整する時間を設けることが重要です。共有ドキュメントツールは、リアルタイムでの共同編集に適しています。
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表現方法の検討と準備: 完成したストーリーをどのように発表するか、グループで検討します。単に文章として発表するだけでなく、絵や図を加える、劇形式にする、プレゼンテーションソフトを使うなど、様々な表現方法があります。この過程で、生徒たちはストーリーを伝えるために最適な方法を考え、役割を分担して準備を進めます。
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発表と共有、相互評価: 完成したストーリーや成果物をグループごとに発表します。他のグループの発表を聞く生徒は、物語の内容だけでなく、協働の過程や表現の工夫にも注目します。発表後には、内容や協働プロセスについて簡単な質疑応答やフィードバックの時間を設けると、互いの学びを深めることができます。例えば、「この物語で最も工夫した点はどこですか」「この部分のアイデアはどのように生まれましたか」といった問いかけが考えられます。
実践例:歴史の授業で「もしあの時代にSNSがあったら」
中学校の歴史の授業で、ある時代の出来事を扱った際に、「もしその時代にSNSがあったら、登場人物たちはどのような投稿をするだろうか」というテーマでグループワークを行います。
- ステップ1(テーマ設定): 「戦国時代の武将たちがSNSを使ったら」
- ステップ2(グループ編成と初期設定): 4~5人のグループに分け、各グループで担当する武将を決める(例: 織田信長、豊臣秀吉、徳川家康など)。それぞれの武将の基本的な性格や置かれている状況を確認する。
- ステップ3(共同でのストーリー構成と記述):
- 各武将のSNSアカウント名を考える。
- 特定の出来事(例: 桶狭間の戦い、本能寺の変)について、担当武将の視点から「投稿」や「コメント」を作成する。当時の状況や感情を想像し、どのような情報が共有され、どのような反応があるか話し合う。
- 共有ドキュメントに時系列で投稿を書き加え、武将間のやり取り(コメント欄での会話)をシミュレーションする。
- ステップ4(表現方法): 共有ドキュメントの内容を整理し、発表資料としてまとめる。SNSの画面を模したスライドを作成するなど、視覚的に分かりやすい工夫を凝らす。
- ステップ5(発表と共有): 各グループが担当武将の「SNS投稿」を発表する。他のグループは、発表された内容から当時の武将たちの関係性や心理を読み解き、感想や質問を投げかける。
このような活動を通して、生徒たちは歴史上の出来事を単なる暗記としてではなく、登場人物の心情や立場の違いを想像しながら、主体的に学びを深めることができます。また、グループでの話し合いやアイデア出し、役割分担といった協働プロセスが自然と生まれます。
ストーリーテリング導入の注意点
協働的なストーリーテリング活動を導入する際には、いくつかの点に留意するとよりスムーズに進められます。
- 活動時間の確保: 生徒がじっくり話し合い、考えをまとめる時間が必要です。単発で終わらせず、複数時間や単元全体を通して取り組む計画も有効です。
- 活動場所の検討: グループで自由に話し合いができるよう、机の配置を工夫したり、教室以外の場所を活用したりすることも検討します。
- 評価の観点: ストーリーの内容の完成度だけでなく、グループでの協働プロセス(意見の出し合い、役割分担、貢献度など)も評価の対象に含めることで、生徒の主体的な関与を促すことができます。
- 教員の適切な介入: 必要に応じて、グループでの話し合いに行き詰まっている生徒にヒントを与えたり、議論が本筋から逸れていないか確認したりするなど、適切なタイミングでサポートを行うことが重要です。
まとめ
ストーリーテリングは、生徒の想像力や表現力を育むだけでなく、協働学習を促進する強力なツールとなり得ます。物語を共に創造する過程で、生徒たちは自然な形でコミュニケーションを図り、互いの考えを尊重し、共通の目標に向かって協力することを学びます。
複雑な準備や特別なツールは必須ではありません。身近な教材や簡単な共有ツールを活用し、まずは短い時間からでも授業に取り入れてみることをお勧めいたします。ストーリーテリングが、生徒たちの主体的な学びと豊かな関わりを育む一助となれば幸いです。