ストーリーテリング授業デザイン

概念の「背景」を紐解く:生徒が深く理解するストーリーテリング活用法

Tags: ストーリーテリング, 抽象概念, 授業実践, 理解, 中学校

抽象的な概念を生徒に「腑落ち」させるために

日々の授業で、生徒が特定の概念について「言葉は覚えたけれど、本当の意味が理解できていない」と感じることは少なくありません。特に、抽象的な概念や原理原則は、具体的なイメージが掴みにくいため、生徒にとって学びの壁となることがあります。なぜその概念が必要なのか、どのようにして生まれたのかといった「背景」や「文脈」が欠落していると、単なる知識の羅列として受け止められてしまいがちです。

ここでは、こうした抽象概念の学習において、ストーリーテリングを効果的に活用し、生徒の理解を深めるための具体的な方法についてご紹介します。概念が持つ物語を紐解くことで、生徒は学びを自分ごととして捉え、探究心を育むことができるでしょう。

ストーリーテリングが抽象概念の理解に役立つ理由

抽象的な概念は、しばしば長い歴史や様々な人々の思考の積み重ねの上に成り立っています。その「誕生」から「発展」、「活用」に至るプロセスには、発見の驚き、困難への挑戦、議論や試行錯誤といった人間ドラマが含まれています。これらの背景をストーリーとして語り聞かせることは、以下のような効果が期待できます。

抽象概念の「背景」をストーリーとして伝えるステップ

概念の背景をストーリーとして伝えるためには、いくつかの準備と構成が重要です。複雑な理論や高度なツールは必要ありません。既存の知識を少し違った角度から再構成するだけで、手軽に試すことができます。

  1. 対象とする概念を選ぶ: 授業で生徒が特につまずきやすい、あるいは重要ながらも抽象度が高い概念を選びます。
  2. 概念の「誕生」を探る:
    • その概念は、どのような「問い」や「課題」から生まれたのでしょうか。
    • 当時の人々は、何を知りたくて、何を解決したくて、その概念にたどり着いたのでしょうか。
    • 概念の発見や提唱には、どのような人物が関わっていたのでしょうか。その人物はどのような人物でしたか。
  3. 概念の「発展」をたどる:
    • その概念は、どのように検証され、どのように受け入れられていったのでしょうか。
    • どのような試行錯誤や議論があったのでしょうか。
    • 後の時代に、その概念はどのように発展したり、関連する別の概念が生まれたりしたのでしょうか。
  4. 概念の「現在」と「繋がり」を示す:
    • その概念は、現代社会でどのように活用されているのでしょうか。
    • 生徒たちの日常生活や、彼らが将来関わるかもしれない世界と、どのように繋がっているのでしょうか。
  5. 物語の構成を組み立てる:
    • ステップ2~4で集めた要素を、「始まり(問題提起/誕生)」「中盤(探究/発展)」「結末(現代への繋がり/意義)」という物語の構造に沿って整理します。
    • 重要なターニングポイントや、当時の人々の感情(驚き、葛藤、喜びなど)を想像し、ストーリーに織り交ぜます。
    • 専門用語を避け、生徒に分かりやすい言葉や比喩を用います。

実践例:中学校の授業で概念の背景を語る

いくつかの教科における実践例を考えます。

導入における工夫と注意点

まとめ

抽象的な概念は、その背景にある物語を知ることで、生徒にとって血の通った、意味のある知識となり得ます。単に定義を覚えるだけでなく、「なぜ」そうなるのか、「どのようにして」その考えが生まれたのかを知ることは、生徒の知的好奇心を刺激し、学びを深くする手助けとなります。

今回ご紹介したように、概念の「誕生」から「現在」への繋がりを物語として構成することは、教員が既存の教材研究に「ストーリー」という視点をプラスするだけで実践可能です。授業の限られた時間の中で、短いエピソードとして語ることから始めてみてはいかがでしょうか。このアプローチが、生徒たちの概念に対する「なるほど」や「もっと知りたい」に繋がることを願っています。